取材(a)


玲花は、学校が終わる時間を見はからって、赤月誠を校門近くで待ちぶせしていた。
しかし、いくら待ってもそれらしい生徒は出てこない。

「もしかして、うっかり見逃してしまったかしら……」

そうこうしているあいだにも、下校する生徒たちはだんだんと減ってくる。
すこしあせりを感じた玲花は、たったいま学校から出てきた男子生徒のふたりを呼び止めた。

「こんにちは。とつぜんですが、月見坂学園中等部について、取材をさせていただけるかしら?」

制服から見て、彼らも赤月誠と同じ中学生でまちがいない。
玲花がふたりに自分の名刺を見せると、片方の男子生徒が目を輝かせて、話に乗ってきた。

「俺でよければいくらでも話しますよ! もちろんこういうときって、おいしいものをおごってくれるんだよね?」

どうやら必要以上にノリのいい子に話しかけてしまったようだ。
しかし、たしかに座りながらのほうが、ゆっくり事情も聞けるだろう。

玲花は開いていたメモ帳をぱたんと閉じて言った。

「……近くのファミレスでよければ、なにかおごりましょう」
「よっしゃー! じゃあさっそく行こうぜ、お姉さん! あ、俺の名前は志鶴朔之介(しづる・さくのすけ)です!」

朔之介はそう言って、もうひとりの男子生徒の腕をがっちりとつかんだ。

「んで、こっちは亀ヶ淵新弥(かめがふち・にいや)! 俺の親友!」

新弥はあからさまに迷惑そうな顔で、朔之介のことを見ている。
しかし朔之介はまったく気にすることなく、そんな新弥をつかんだまま、玲花を近くのファミリーレストランへと案内した。



ファミリーレストランの店内で、メニュー表越しに朔之介が玲花にたずねた。

「重ねて聞くけれど、ここはお姉さんが、ぜーんぶ払ってくれるんだよね?」
「ええ、なんでも好きなものをどうぞ」
「やりぃ! 得したな、ニャー」
「う、……うん……」

どうやら新弥のあだ名は、「ニャー」というらしい。
新弥は、うーん、とメニュー表を見ながらうなると、朔之介に声をかけた。

「……さっくんは、なににするの?」
「なににすっかなー……、こんなことなら、昼飯をひかえておけばよかったな」

朔之介のほうのあだ名は、「さっくん」らしかった。
朔之介はメニュー表を念入りにチェックすると、ふと、玲花が先ほど渡した名刺をまじまじと見つめた。

「えっと……ロクロギ……さん? は、なに頼むの?」
「私は水でけっこうです」

玲花がつん、とすまして言うと、朔之介がふーん、と納得したように言った。

「なるほど、記者って意外とビンボーなんだな」

そのとき、玲花の顔がみるみる赤くなっていくのに、新弥が気がついた。
新弥があわてて朔之介になにか言おうとしたところで、玲花がばん、とメニュー表を机にたたきつけた。

そして、まもなくやってきた店員に、玲花が言った。

「……このお店でいちばん高いお料理と、デザートと、飲み物をみっつずつお願いします」