部屋に入ってきたのはハジメだった。相変わらず口元はマスクで隠れていて、
手にはなにか、紙のようなものを持っている。オワルがハジメは暗室にいる、と言っていたし、写真だろうか。
ハジメは無言で僕に近づいてくると、手に持っていたものを僕に押し付けてきた。
「……これは……?」
受け取って見てみると、それは古山高校の音楽室を写した写真だった。
写真全体が暗闇に覆われていることから、時間帯はおそらく、夜。
そんな暗闇のなか、薄ぼんやりと浮かび上がるグラウンドピアノ。
そのピアノのまわりに、無数の光のたまが写り込んでいる。
……これはいわゆる、心霊写真というやつだ。
僕は驚いて、ハジメを見た。
「……どしたの、これ」
「霧吹きを使って、フラッシュ光を乱反射させた」
さらりとハジメが答えた。
「さっき学校に忍び込んで、撮ってきた。写真を撮るのに、オワルにも手伝ってもらった」
「ああ、それでオワル、あんなに疲れていたのか……」
僕はすやすやと眠り続けるオワルを見ながら言った。
ハジメも一度、オワルが眠っているのを確認すると、僕に向き直った。
「これを砂辺さんに見せれば、お化けのせいにできる。写真は、和也が撮ったことにしろ。
……俺がカメラに詳しいことを知っているやつは、お前と鬼無里姉弟、それにオワルくらいしかいないけれど、万が一ということもあるから」
「ハジメ……」
この件は僕が引き受けると言っておきながら、結局、根本的な問題を解決をしてくれたのは、ハジメだった。
僕は、頭のどこかでハジメのことを、協力者として過小評価していた自分を恥じた。
「ほんとうにありがとう。助かったよ」
そう言うと、ハジメは目元を細めて、笑ったようだった。