そのとき、ガタン、とうしろからなにかの音がした。
「な、なにっ!?」
日高さんがおびえた顔をして、僕にしがみつく。
音がしたのは、どうやら納屋のなかからのようだ。
僕は納屋に近づき、とびらを開けた。
するとなかには、口もとにガムテープを貼られ、両手足をしばられて転がされた雀さんがいた。
「す、雀さん!」
僕はあわてて、雀さんの両手足をしばっていたロープをほどき、口もとのテープをはがした。
「ぷはっ、はあ、はあっ……! た、たすかった……!」
テープをはがしたとたん、雀さんが何度も大きく深呼吸した。
雀さんは、自分の胸に手を当てながら、言った。
「いったい、なにがどうなって……?
きのうの夜、かなでちゃんに電話で呼ばれて、食事をいっしょにとって……、
でも、そのときからなんだかモーレツに眠くなったんだよな……、いたた、頭がいたい……!」
「……チャコの睡眠薬だ……!」
日高さんが声をあげた。
「でも、眠らせたあと、どうやって雀さんをここまで運んだの……?」
「……チャコのカートだよ」
僕が言った。
「チャコの介護用のカートは、大型犬のためのものだった。そこに雀さんを乗せて、ここまで運んだんだ……!」
「うん、せいかい!」
かなでちゃんは笑っている。
その顔は、むじゃきそのものだった。
「夜になったら、殺してべつの場所に運ぼうって思ってたんだけれど」
さらりと、かなでちゃんはおそろしいことを言ってのけた。
「せっかくここまでがんばったんだもん。……やっぱりぜんぶ解いてもらうと、うれしいね!」
そのあと、かなでちゃんは逃げ出すこともなく、おとなしく警察に連れて行かれた。
かなでちゃんの祖母もようやく目を覚まし、そのまま病院へと運ばれることになった。
僕たちはまたしても事情聴取をされるはめになったけれど、
楯岡刑事の口添えもあり、きのうよりも簡単にすまされて、その場で解放された。
たぶん、もう夕がただと思うけれど、空はまだ明るい。
これから夏に向かっていく季節だ。どんどん日が長くなっていく。
「今回は助かっちゃったね。あやうく、僕が逮捕されるところだった」
雀さんがえへへ、と笑った。
そんな雀さんに対して、ミカミがふん、と鼻を鳴らした。
「礼なら、彩人に言うんだな」
「えっ、どうして?」
僕はおどろいてミカミを見た。
「真犯人をつき止めたのは、ミカミだろ」
「彩人が、『雀さんが犯人じゃない』と言い出さなければ、私がべつの人間をうたがうこともなかった」
「そんな、むちゃくちゃな」
ミカミの言いぶんに、僕はあきれた。
「目のまえの証拠より、僕の勘を採用したってことか?」
「もちろんだ」
遠くで、ゆずり葉町の五時を知らせる、チャイムの音が鳴り始めた。
……そういえば縫針先生と、このチャイムの不協和音がなんともきもちがわるいと、話したことがあったっけ。
鳴り続けるチャイムのなかで、ミカミは笑った。
「……この私の親友の直感が、はずれるわけがないだろう?」