影を追って(c)


家のそとに出たあと、ミカミはそのまま家の裏手の雑木林のなかへと入っていった。

「ど、どこに行くんだ、ミカミ?」

僕と日高さんが追いかけると、ミカミは雑木林のなかにある、小さな納屋のまえで足を止めた。
そして納屋のとびらの取っ手に手をかけたとき、


「彩人おにいちゃん、こんなところでどうしたの?」


うしろから、その声は聞こえた。
僕たちがふり返ると、そこにはかなでちゃんが立っていた。

僕は思わず、うしろ手(で)で日高さんをかばった。

「かなでちゃん……、きみこそ、いままでどこに行っていたんだ?」
「ちょっとお出かけしてたの。……もしかして、勝手にかなでのおうちのなかに入った?  それって、『不法侵入』だよね?」

かなでちゃんは首をかしげて言った。

「でも、いますぐ出て行ってくれたら、通報しないであげる。 かなで、彩人おにいちゃんには警察に捕まってほしくないもん」

そう言って、かなでちゃんが一歩、こちらに踏み出した。
そのとき、

「待て。それ以上動くな」

ミカミがかなでちゃんを制止した。
かなでちゃんはおとなしく、ミカミの言葉に従う。

「……ミカミおにいちゃん、だったよね。こわいお顔をして、どうしたの?」
「こわいのはおまえのほうだ」

ミカミはするどい目つきでかなでちゃんのことをにらむと、言った。

「縫針かなで。おまえが母親……、縫針琴子を殺したな」