落としもの(a)


次の日の朝。
学校に向かう途中、ミカミと会った。

「彩人、だいじょうぶか?」
「え?」
「ひどい顔をしているぞ」
「そ、そうかな」

僕はあわてて、自分の頬に触れてみる。

自分では気づかなかった。
たしかに昨日は、あまり眠れなかったけれど。

……縫針先生。
いま思い出しても、わるい夢のなかで起きたできごとのようだった。

床に横たわっていたのは、縫針先生だったのだろうか。
死んだのは、ほんとうに縫針先生だったのか。

わかっている。
そんなこと、うたがったってしょうがない。

僕は、ぎり、と奥歯をかんだ。

「……だれが、あんなことを」

僕の口から、言葉がもれた。

「だれが縫針先生を殺したんだろう。犯人は、もう捕まったのかな」
「いや、それがまだらしい」

ミカミが僕のとなりで言った。

「きのう、この事件を担当する刑事のひとりと親しくなった。その刑事から聞いた話を、彩人にも話そう」
「え……」

いくら親しくなったといえ、刑事が事件のことを簡単に口外するとは思えない。

「……親しくなったって、いったいどんな手を使ったの?」
「なに、すこし『アドバイス』をしてやっただけだ」

そしてミカミは言った。

「しかしやつらは、どうも頼りない。……私たちで、犯人を見つけるぞ」