「ニワトリって……、あの、校庭の小屋で飼われている?」
「そう、そのニワトリ。……私、飼育委員なの。
でも、今日の放課後に見に行ったら、小屋のなかにいたはずの二羽とも、いなくなっていて……」
日高さんがうつむいた。
「先生に報告したら、たぶんヘビにでも食べられたんだろう、って言われて。
……でも私、きのうの放課後に小屋のとびらを閉め忘れたような気がしていたんだ。
もしもそうだったら、まだ生きていて、どこかにいるんじゃないかなって……」
「事情はわかった」
ミカミはうなずいた。
「まずは、現場を見ておきたい。校庭の小屋まで行こう」
協力すると決断すれば、ミカミの行動ははやかった。
僕とミカミ、そして日高さんの三人は、学校の校庭へと向かった。
校庭にあるニワトリ小屋は、小さな小屋だった。
木の板で簡単に組まれたその小屋は、壁のかわりにこまやかな目の網(あみ)が張られていて、なかが見えるようになっている。
ふだん、このなかで動物を飼っているにしてはきれいなもので、まめに掃除がされていることがわかった。
日高さんが、そっと網に手を触れた。
「……ニワトリがいなくなったって気がついたとき、小屋のとびらは閉まっていたの。それに、小屋のどこかに穴が空いているってこともないと思う。でも、ヘビって、どんなにせまい隙間からでもなかに入っちゃうっていうから……」
「……いいや、これはヘビのしわざではないな」
ミカミが小屋のなかをのぞきながら言ったので、ぼくはたずねた。
「見ただけでわかるの?」
「ああ。ニワトリだって、生きものだ。ヘビや野犬に襲われたなら、必死で抵抗するだろう。
抵抗すれば、鳥の羽根が抜けて、その場に散らばるはずだ。……日高、今日は掃除をしていないんだろう?」
「う、うん……」
「それなら、この小屋はきれい過ぎる」
そしてミカミは、ぐるりと小屋のまわりを一周した。
「見たところ、日高の言ったとおり、ニワトリが通れるような大きな隙間もない。
……結論は簡単なことだ。きのう、日高はとびらを閉め忘れ、ニワトリは夜のうちに小屋から脱走した。
とびらは、開きっぱなしになっていることに気がついただれかが、親切心から閉めた。それだけのことだ」
「それじゃあ、ニワトリは生きているんだね……!」
日高さんがうれしそうに言ったが、ミカミの表情は冴えなかった。
「問題は、どこに逃げたか、だ。
学園の敷地内にいたとしたら、昼間のあいだにだれかが見つけて、すでに知らせているはずだ。
しかしまだ知らせがないということは、ニワトリは人間を避けながら行動しているということになる。
もしくは、逃げたあとにべつの場所でヘビに食べられた、ということも……」
「……ミカミ。ニワトリにレクイエムを捧げるまえに、一箇所だけ確認しに行きたい場所があるんだけれど」
僕は小さく手をあげながら、言った。
ミカミの話を聞いているうちに、思い出したことがあったのだ。
「日高さん。ニワトリって、……キャベツも食べるよね?」