7月7日(--) 32時12分(e)


僕たちは、店で手に入れた品物をショッピングカートに載せて、それを押しながら街なかを歩いた。
タイヤが地面をこすれてがたがたがたとうるさいけれど、へたなスーツケースに入れるよりも、これが一番運びやすかったのだ。

路上のあちらこちらに止まっている車を見ながら、僕はため息をついた。

「こんなことになるなら、車の免許、取っておけばよかったな」
「車に乗ってしまったら、小さな手がかりを見落としてしまうかもしれません。私たちには、こうして歩いていくほうが合っていますよ」

みずきが僕をなぐさめるように、言った。
しかし、みずきと話をしているあいだも、僕の頭からは先ほどの電話のことが離れなかった。

池袋からちょうど二駅ぶんほど歩いたところで、みずきが足を止めた。

「蒼太さん、蒼太さん。あそこが私の家です」

みずきが指差したのは、巨大な屋敷だった。
まさか、と思ったが、みずきの指差した方角には、延々と続いているその屋敷の塀(へい)しか見えない。

「どうでしょう、今日は私の家に泊まっていきませんか?」
「……いいのかな、僕なんかがおじゃましても……」
「私がいいと言っているんだから、いいんですっ」

そしてしばらく歩いたあと、大きな門の前にたどり着いた。

「うふふ、私の家にようこそ!」

みずきがうれしそうに笑う。

門を入ってまずは、大きな庭が広がっていた。青々とした芝生の中央に、りっぱな石畳が続いている。
その上をしばらく歩き、玄関から屋敷のなかへと入っていく。

屋敷のなかは、うす暗かった。
みずきが明かりを灯しても、すべてのカーテンがしまっているせいか、部屋のすみずみまでは光が届いていない。

「……すごい豪邸だな。もう一度聞くけれど、ほんとうに僕みたいな庶民が、入ってきてもいいの?」
「庶民だなんて、うふふ。 あ、くつはそのままでだいじょうぶですよ」

靴を脱ごうとしていた僕に、みずきが言った。 そしてみずきに手を引かれるままに、僕は廊下を歩いていった。

廊下にも、見るからに高価そうな絵画や彫刻などが、いくつも飾ってある。
そうして階段をのぼり、それからすこし歩いて、ようやくみずきが止まった。

「ここが私の部屋です」

ぎい、と音を立てて、重そうな扉が開く。
扉の向こうは、僕のマンションの一部屋の五倍……、いや、十倍はあるかもしれない、とても広い部屋だった。

カーテンは白のレース。ベッドの上には大きなテディベアが置かれている。
大きな化粧台に、本棚、洋ダンス……、そのどれにも同じ模様がほどこされていて、統一されていた。

みずきは言った。

「あの、ここでお待ちいただけますか? 私、すこしお風呂に入ってきます」

これは、ひとりきりになるいいチャンスだ。
ずっと緋色に電話をする機会をうかがってはいたものの、結局はこんな時間になるまで、メールすらも送れていないことが気がかりだった。

「うん、わかった。ゆっくりどうぞ」

僕が言うと、みずきは部屋から出て行った。
みずきの足音が聞こえなくなったあと、僕はポケットから携帯電話を取り出すと、緋色に電話をかけた。