「蒼太さん、紅茶ができました。どうぞ」
「ありがとう」
僕は、みずきからカップを受け取った。
なんだかとてもいい香りがする。カップのなかをのぞきこんでみると、オレンジ色の液体が入っていた。
「カンヤム・カンニャムという紅茶です」
みずきの口から呪文のような言葉が発せられた。
「か、かんにゃむ?」
「はい」
にっこりと笑ってみずきがどうぞ、と手で紅茶を進めてくる。
「実は私のお気に入りの紅茶なんです。さ、どうぞ召し上がれ」
「じゃ、じゃあ遠慮なく……」
おそるおそる口をつけ、一口だけすすってみた。
聞きなれない名前のわりには、香りがよくて、おいしかった。
「うん、おいしい」
「そうでしょう? この紅茶は、ストレートで飲むのが一番おいしいんですよ」
そうしてみずきも自分のカップに口をつけ、うっとりとしている。
異常な世界のわりには、なんだかまったりとした、おだやかな朝だった。
「さて、と」
みずきはぱん、と手を叩いた。
「この紅茶を飲み終わったら、今日も街に出かけましょう。
この世界をなんとかする手がかりを、はやく見つけないと」
みずきはきのうよりも、だいぶ元気になっているようだった。
しかし、こうしてこちらの世界では当然のように会話を交わしている村崎みずきも、向こうの世界には存在していなかったなんて。
……この少女はいったい、何者なんだろう。