深神さんは、僕にコーヒーをいれてくれた。
「西森少年は砂糖なしのミルク多め、だったかな」
そう言いながら僕のまえに、コーヒーと小さなミルク入れを置いた。
「お気をつかわせてしまって、なんだかすみません」
「気にするな、私と西森少年の仲ではないか」
僕の対面に座った深神さんは、長い足を組んだあとに、自分もコーヒーに口をつけた。
彼とふたりきりになることなどいままでになかったので、僕はすこしだけ緊張した。
「それで、西森少年はなにかについて知りたくて、ここへ来たそうだな?」
「ええと……」
いきなり本題をふられて、僕は口ごもった。
「……『村崎みずき』という女の子について、調べてほしいんです」
「その人物について、知っていることは?」
「もしも実在しているのなら、虹ノ端の……付属の高校に通っていると思います。学年は二年生」
「ふむ。……早速だが、すこし調べてきてもよろしいかな?」
「は、はい! よろしくお願いします」
深神さんは、ふたたび自分の部屋へと入っていった。
そのうしろすがたを見送ってから、僕は息をついた。
この世界に、村崎みずきがいなければいい。
そうすれば、あの七月七日はより一層、現実から遠のいていく。
「どうかしている。……どう考えたって、あれは夢の世界じゃあないか」
頭をふった。しかし夢であることを望んでいる一方で、
こころの片すみでは、彼女とこの世界で会ってみたいと思う気持ちもたしかにあった。
だれもいない世界を共有した、たったひとりの僕の理解者。
僕にはなにを望むことが正しいことなのか、よくわからなかった。