僕の思ったとおり、村崎みずきは虹ノ端大学付属高等学校の、普通科に通う二年生だった。
高校の校舎は、僕の通っている池袋の大学からは二駅ほど離れた場所にある。
そしてみずきは、高校の近くに住んでいるらしい。
しかし電車が止まっていたために、今日はそこから歩いて池袋までやってきた、とみずきは言った。
みずきと話をしていくうちにわかったことは、彼女はいまどきめずらしいぐらい、礼儀正しい子だということだった。
なにより僕にとっては、ふたりで話しながら歩くだけでも、だいぶ気持ちが救われていた。
こんなことを思ってはいけないのだろうが……それでも、この世界にみずきがいてくれて本当によかった、と心の奥でひっそりと思った。
「それにしても……、ほんとうに私たち以外は、だれもいないんですね」
みずきの言うとおりだった。
あれからも長い時間をかけて池袋の街なかをじっくりと散策したけれど、
結局は僕たち以外に人を見つけることはできなかった。
「……僕らだけが、ちがう世界に飛ばされてしまったなんてことは、ないよね」
「パラレルワールド、ですか。でもたしかに、この世界がきのうまでの世界と同じようには思えませんよね……」
僕は、携帯電話で時間を確認した。
二十一時。すでに夜に区分される時間のはずだ。
しかし、空は相変わらず灰色の雲が立ちこめているだけで、明るさ自体は朝と比べて変化はなかった。
「夜が来る気配もないな」
「そうですね。お昼も太陽は見えなかったですし……、
ずっとこのままのお天気なのかもしれません。今日はもう、どこかで休みましょうか」
「ああ……」
さすがに一日中歩き続けて、足の裏も、ひざも痛い。
汗を吸ったシャツが背中に張りついているのも気持ちがわるかった。
「僕のマンションがここから近いんだ。そこで休もうか」
「うふ、なんだかお泊まり会みたいで、楽しみです」
みずきが言葉のとおり、楽しそうに笑った。