どうやらとびらの向こうは、階段になっていたらしかった。
ぼくは階段から転がり落ちて、尻もちをついた。
「あいたたた……」
そして転がり落ちた先も、まっ暗だった。
暗闇のなかでまわりを探っていたぼくの真下から、うめき声が聞こえた。
「ま、牧志、はやくどいてくれ……」
一瞬どきりとしたけれど、声の正体は白河くんだった。
白河くんもぼくが落ちるときに巻きこまれて、ぼくのクッションになっていたらしい。
「あ、……ごめん、白河くん」
そう言って立ち上がったとき、ぼんやりと灯りがついた。
うす暗い灯りの正体は天井から垂れた吊るし電球で、どうやらくるみさんがスイッチを入れたらしかった。
やがて視界のなかに浮かび上がったのは、長方形に切り出した石が積み重ねられた壁で囲まれた部屋だった。
部屋のなかには、ひんやりとした冷気がただよっている。
ワインセラーにしてはずいぶんと広く、ぱっと見ただけでは教会のようにも見えた。
しかし、部屋のなかに置かれていたのはワインでも、もちろん十字架でもなかった。
そこには、……見たことのないような大きな宝石や彫刻が、まるで展示品のようにきれいに並んでいたのだった。
階段を降りてきた時計屋さんが、並んだ美術品を見てぎょっとした。
「うわっ、なんだ、この部屋? ……この宝石なんて、雑誌かなにかで見たことがあるぞ」
「これは……、『ヴィーナスの首飾り』。まえに国立博物館から盗まれたものだわ」
時計屋さんといっしょにやってきたくるみさんも、大きな宝石をじっと見つめている。
そんななか、白河くんは壁の中央に飾られていた大きな絵画の前に立っていた。
白河くんのそばに寄り、それを目の当たりにしたぼくも、思わず息をのむ。
……それは透きとおるように美しい色彩で描かれた、女性の油絵だった。
女性はやわらかな笑みをたずさえている。
絵画からは光があふれ、自ら輝いているみたいだ。
ぼくの全身が感動でふるえる。
……これが「サバト」の絵画。
白河くんがひとめぼれしたという、伝説の絵描き……。
「き、きみたちはいったいなんなんだ!?」
そのとき、うしろで悲鳴にも似た男の人の声がした。