アロマちゃんと猫本さんが事務所から出て行き、そのころには深神先生も一階のフロアへともどってきた。
「どうでした? 犯人はわかりそうですか?」
私が深神先生にたずねると、深神先生は口の端をあげた。
「大峠社長の死因は後頭部を鈍器で殴られたことによる外傷性ショック、……つまり撲殺(ぼくさつ)とのことらしい。
凶器は社長室にあったトロフィーで、指紋はさすがに残っていなかったが……」
深神先生はフロアの天井の一角を指差した。
そこには、ドーム型の防犯カメラが設置されているのが見えた。
「あの防犯カメラの映像を解析したら、すぐだろう」
「あらぁ……でも、聞いた話だと、事件前後の時間のデータが消されていたって話じゃない?」
話に入ってきたのは雨車さんだった。
「うちの場合、モニタールームに人が常駐しているわけではないし、あの辺りは出入りも少ないから……、あやしい人物の目撃証言も、いまのところないって聞いたわ」
「ああ、そうだ。しかし、犯人は間抜けで、重大なミスを犯している」
「ミスって?」
雨車さんが興味津々でたずねてきたとき、男の人がバタバタと深神先生に駆け寄ってきた。
「探偵さん! 俺、さといちゃんのマネージャーの影平夜助(かげひら・よるすけ)です!」
名刺を差し出しながらぺこぺこと頭を下げた影平さんは、深神先生に泣きついた。
「お願いです、どうか一刻もはやく、さといちゃんを見つけてください! そして見つけたときにはいちばんに俺に連絡してください! さといちゃんはキセプロのトップアイドルなんですよ! このまま芸能活動を終えるなんてとんでもない……ッ!」
「まあまあ、影平さん」
深神先生は子どもをあやすように、影平さんの背中をたたいた。
「心配しなくても、私の見立てでは、あと数日でさとい君は見つかりますよ」
「ほ、ほんとうですか!?」
影平さんより先に、私がおどろいて声をあげてしまった。
「どうして? 深神先生、なにか手がかりをつかんだんですか?」
「探偵さあぁん! なにか知っているなら教えてくださいよお! 俺、あしたはあの熊咬アロマのライブの手伝いをしなきゃいけないんです。さといちゃんのライバルになんか、手を貸したくないのにぃ……!」
影平さんが両手で顔を覆って、おいおいと泣いた。
「ライブ?」
そう言って深神先生に視線を向けられ、私は手に持っていたパンフレットを深神先生に見せた。
「私、アロマちゃんに呼ばれて、そのライブに行く予定なんです。雨車さんも司会で参加するんですよね?」
「ええ、そうよぉ。私もヒマじゃあないんだけれど、事務所のピンチだし、しょうがないわよねえ」
「ふむ」
深神先生はパンフレットをながめたあと、私の肩に手を置いた。
「こんなときだ、すこしは息抜きしてきたまえ。私はもうすこし、犯人の手がかりを探してみよう」