へんな探偵(d)


放課後。
私は部活動を休むことを顧問の先生に伝えて、そのまま事務所へと向かった。

探偵事務所に着いたのは、十六時過ぎだった。
深神先生はちょうど事務所に鍵をかけて、どこかに出かけようとするところだった。

深神先生は私を見ると、不敵にほほ笑んだ。

「時間どおりだな」

そう言われて、私は首をかしげる。
朝、“事務所に来るように”とは言われたけれど、待ち合わせの時間までは決めていなかったはずだ。
つまり、深神先生は私が事務所に寄る時間……、もっと言うのなら、私が学校の授業を終える時間を知っていたことになる。

「学校が終わる時間、どうしてわかったんですか?」
「きみの制服は星鏡(ほしかがみ)中学校の制服だ。名札のラインの赤色は、星鏡中では二年生を示している。 そこまでわかれば、時間割を知ることなんて造作もないことだ。さあ、そんなことより、はやく出かけようではないか」

さらさらと言われて、私はどぎまぎしながらもたずねる。

「え、えっと、どこへ行くんですか?」
「キセキプロダクションの事務所だ」

まるで「夕ご飯はカレーだ」、と告げるくらいの当たりまえさで、深神先生が言った。

「……そんなところに、私も行ってだいじょうぶなんですか? それにいま、キセキプロダクションには警察もいっぱいいるんじゃ……」
「警察には知り合いがいるから問題ない」

そう言って、深神先生はさっさと階段をおりていってしまう。
それから階段の途中で私をふり返ると、ふしぎそうに言った。

「どうした? 行かないのか?」
「い、行きます!」

深神先生の行動はなんだか予測がつかなくて、こちらが考えているひまもない。
私は大慌てで深神先生のあとについていった。