へんな探偵(b)


私は制服に着替えると、朝ごはんもそこそこに、大急ぎで池袋の駅前に向かった。

すうすうと、耳の横を冷たい風が通り過ぎていく。
季節は秋だ。このあいだまではじりじりと暑かったのに、いまではすっかり、空気がひんやりとしている。

身ぶるいをしながら腕時計を確認すると、時刻はまだ七時三十分だった。
登校時間までには、まだ二時間ほど余裕があった。

でも、駅前に着いたとき、私はあることに気がついてしまった。

「お店……、どこも閉まってる……」

当たりまえだけれど、こんな時間に開店しているのはコンビニエンスストアくらいで、まだシャッターが降りたままの店がほとんどだった。

「探偵事務所って、何時から開いているのかな」

こんな朝早くから営業しているとは思えないけれど、どちらにしても、まずは行って確認しないと。

気を取り直して、あの『へんな人』が入っていったビルを探す。
駅前からすこし離れ、細い路地を入ったところに、あの古い雑居ビルはあった。

私は目のうえに手でひさしを作りながら、看板を見上げた。

「営業時間は……書いてないなあ。ビルに入ったらわかるかな?」

私はビルの階段をあがると、探偵事務所の看板がかけてある、とびらのまえに立った。
事務所のとびらはガラスでできていたけれど、カーテンが下りていてなかを覗き見ることはできない。

試しにとびらを押してみても、思ったとおり、鍵が閉まっている。
振動で向こう側のドアベルがカラン、と鳴っただけだった。

「うーん、どうしよう。今日はお休みの日かもしれないし……」

私がその場でうんうんとうなっていると、わずかにカーテンが動いた。

私はおどろいて、ガラスの向こうを凝視した。
カーテンはするすると上へあがり、とびらの向こう側にいたあの”へんな人”と目が合った。

「……やっぱり探偵さんだったんだ!」

私がそうつぶやくのと、へんな人がとびらの鍵を開けるのは同時だった。