午前の授業が終わると、誠は青空を昼食へとさそった。
「越智さん抜きでもうすこし話をまとめたいから、屋上でもいいかな」
誠の提案に、青空はおずおずとうなずいた。
もちろん、許可なしに屋上に出ることは禁じられている。
しかし、屋上のとびらはカギをまわすだけで、だれでもそとに出ることができるようになっていた。
そしてこの学園の生徒がみんなまじめに規則を守っているおかげで、校舎の屋上に来るものは、誠と青空以外にはだれもいなかった。
ふたりがそとに出ると、屋上にはほどよい日差しがふり注いでいた。
空は地上で見るよりも、どこまでも広く感じられる。
ふたりは屋上の床の上に座った。
そしてかばんからあんパンを取り出した誠に、青空がおどろいてたずねた。
「あ、赤月君、……そのパンが、お昼ごはんなの?」
毎朝、リムジンで登校している誠のイメージとは、だいぶちがう。
誠はビニールのふくろを開けると、なかのあんパンを取り出して言った。
「僕のことは、誠でいいよ。……料理人の作る食事は、なんだか飽きちゃって。それに僕、こういうあまいもののほうが好きなんだよね」
「そ、そうなんだ……」
「西森さんのことは青空でいいかな。お弁当、おいしそうだね」
青空のひざの上にのっている弁当を見ながら、誠は言った。
青空は、すこし赤くなりながら言った。
「あ、ありがとう。お兄ちゃんと自分のぶんのお弁当は、私が作っているの……」
「へえ? 青空って、器用なんだね」
「そ、そんなことないよ……、ただ、最初のころはお兄ちゃんと交代で作るって決めていたんだけれど……」
そこで青空の笑みがすこしだけ引きつった。
「わ、私のお兄ちゃんの料理って……たまにすごく独創的だから……」
……どうやら青空も、いろいろと苦労しているようだった。
「えっと、それで……、放課後までにまとめておきたいお話って……?」
「ああ、そうだった。越智さんの死因についてなんだけれど……、女子のあいだで、いじめの話って出てる?」
青空はうつむきながら、答えた。
「……うん。越智さんをいじめていた相手としては、B組の鹿波さんの名前があがっているみたい。
ただ、私たちのクラスでは、直接見たっていう人はあんまりいないみたいだけれど……」
「やっぱり……鹿波さんか」
誠が納得したようにうなずいた。
「きのう、職員室で狐塚先生と話をしている鹿波さんを見かけた。そこでも、いじめのことが話に出ていたよ」
「でも……、越智さんは自分の意思で死んだわけじゃないんだから、死因もいじめと関係ないんだよね?」
「いや、ひとつだけあるんだ。いじめと越智さんの死とが関わる可能性が」
誠はあんパンのかけらを飲みこむと、言った。
「エスカレートしたいじめの行きつくところ。……つまり、殺人だ」