誠と青空を教室に送り届けてしまえば、飛鳥はたちまち、ひまになってしまった。
「ふたりとも部室棟にいるとは、盲点だったな。すっかり教室に来るものだと思いこんで、校舎のほうで待ちぼうけをくらってしまった」
結局、夜のうちにマリアがすがたをあらわすことはなかった。
そして夜のあいだ中つき合ってくれたぴよ吉はというと、朝になると学校のそとの雑木林へとすがたを消してしまった。
どうやら日中は、あの雑木林のなかで過ごしているようだった。
飛鳥がふたたびひとりきりで、校庭をふわふわと散歩していると、
「飛鳥お姉ちゃーん!」
そんな声とともに、どこからかあらわれたマリアが飛鳥の腰に抱きついてきた。
「おお、マリア! いままでどこに行っていたんだ?」
「えへへ、ちょっとお外に用事があったからー……」
マリアは照れたように笑うと、飛鳥の前に回りこんだ。
「これ、飛鳥お姉ちゃんに、おみやげ!」
そう言ってマリアはむむむ、と手のひらをぐーにすると、
「えいっ!」
とふたたび開いた。
その瞬間、マリアのまわりにぽんぽん、とくだものや和菓子といった食べものがあらわれて、
ぼてぼてと地面の上に落ちていった。
「すごい! まるで手品みたいだ!」
飛鳥が感激しながら手をたたくと、マリアは得意気に胸をはった。
「だってあたし、先輩幽霊だからっ! 飛鳥お姉ちゃん、いっしょに食べよ!」
「きもちはうれしいが、私はものに触れることができな……」
言いながらも落ちたくだものに手を伸ばすと、なんと指先にものが触れる感触がある。
「あ、あれ? どうして……?」
「だってそれ、どれもあたしたちへのおそなえものだから! 正しく言うと、あたしのお父さまへのおそなえもの。
あたしのお父さま、ちょっとした有名人なんだ。そしてあたしたちは、自分たちにそなえてもらったものなら、いただくことができるの。
あたしがいただいたものを飛鳥お姉ちゃんにおすそわけしたから、飛鳥お姉ちゃんもさわれるし、食べられるってわけ!」
「へ、へえ……? しかし、こんなにおそなえものがあるって、マリアのお父上はいったい……」
「えへへ、それはひみつ!」
それからふたりは校庭のすみの物かげへと移動して、おそなえものを食べることにした。
飛鳥は数あるおそなえもののなかから夏みかんを選び、皮をむいて口にふくんだ。
「おいしい……、食べものをこんなにおいしいと思ったのは、生まれてはじめてだ……!」
「もう死んでるけれどねー。あ、こっちの花ボーロもおいしそうだよっ!」
「ありがとう。ごちそうだな……!」
飛鳥はしばらくのあいだ、しあわせをかみしめるように目を閉じていたが、そのあとにはっと目を開いた。
「きのうぴよ吉から聞いたんだが、マリアもなにか探しものをしているというのは、ほんとうか?」
マリアはもぐもぐと口を動かしながら言った。
「うんー。でも、実はもう見つかってるんだ!」
意外な答えだった。
てっきり探しものを見つけた時点でマリアも成仏するものだと思っていた。
「探しものがマリアの未練ではなかったのか?」
「うーんと、まだすることあるから、もうすこしここにいるの!」
「ふうん……」
飛鳥はマリアの様子をながめていたが、ひとつ気になったことがあった。
「なあ、マリア……」
「んー?」
「……どうしてさっきからコンニャクばかり食べているんだ?」
「えー?」
先ほどからマリアがおいしそうに食べているのはどれもコンニャクだった。
マリアは当たりまえのように言った。
「だって、おいしいから! あたし、コンニャクが大好きなの!」
……好きなのはかまわないけれども。
コンニャクをそなえられるとは、やはりマリアの父もマリアと同様、すこし変わっているらしい。