すこしはやい朝(b)


さすがに飛鳥の話を教室でするわけにもいかず、誠は青空を元ミステリ同好会の部室へと招き入れた。

はやめに登校したとはいえ、朝のホームルームまでの時間はすでに三十分を切っている。
誠と青空は、おたがいに昨日飛鳥と話したことを報告し合った。

「越智さんのすがたを見ることができる人が僕以外にもいて、こころ強いよ」

誠が言った。

「ちなみに……、西森さんは、越智さんが自分でも気づいていない未練って、なんだと思う?」
「えっ……と……」

青空はとたん、すこし頬を赤らめてうつむいた。

「わ、私は……、その……」
「いいよ、遠慮せずに言ってみて」
「……うん……、あのね」

青空は意を決したように、顔をあげた。

「こ、恋かな、……って」

意表をつかれて、誠はきょとんとした。

「……恋?」

青空はまっ赤になると、ぶんぶんと首を横にふった。

「あっでも、やっぱりちがうかも……っ! ご、ごめんなさい、とつぜんへんなことを言って……!」
「……いや、目からうろこだったよ。そうか、そういう可能性があることは、ぜんぜん考えていなかった」

誠は感心しながら言った。

「僕は、越智さんは自分が死んだ真相を知りたいんじゃないかと思って、そのことばかり考えていた。 クラスのうわさでは彼女は自殺したことになっているけれど、越智さんにはそのつもりはなかったらしい」
「そ、そうだったんだ……、それなら、真相を知ることがいちばん大事のような気がする……」

ふたりでうーんとうなっていると、部室の扉から飛鳥がにゅっと顔を出してきた。

「あっ、ふたりともここにいたのか!」

誠と青空がぎょっとして飛鳥のことを見たとき、ちょうどチャイムの音が鳴った。

「ほら、ふたりともはやく教室にもどれ。ああ、それと……」

飛鳥はそれはそれは、うれしそうに笑った。

「赤月君、西森さん、おはよう!」

誠と青空は飛鳥の元気に圧倒されながらも、

「お、おはよう……」

とひかえめにあいさつしたのだった。