あくる日の金曜日、早朝。
高級リムジンの後部座席に、誠と誠の妹・舞がふたり並んで座っていた。
舞は、ふわあ、と小さなあくびをしながら言った。
「お兄ちゃん、こんなにはやい時間に学校へ行くだなんて、どうしたの?」
眠たげにまぶたをこする舞は、それでも服装は寸分の隙もなくきっちりと着こなしているし、
長い髪もきれいに整い、大きなリボンのかざりが留められている。
赤月家のことを、いつ、だれがどこで見ているかわからない。
そんな赤月家の一員として、誠や舞も、身だしなみにはいつも気を使わなければいけないのだった。
誠は笑いながら、そんな妹の頭をやさしくなでた。
「なんでもないよ。……そもそも、舞までついてくることはなかったのに」
その言葉に舞はむっ、と頬をふくらませた。
「舞をのけ者にする気? それにきのうの放課後だって、なんだかお兄ちゃんのようすがへんだったもの。舞は心配しているのよ?」
それから舞はわずかにうつむいて、言った。
「舞に隠しごとなんてしないで。……兄妹なんだから」
「わかった。……もうすこし落ち着いたら、舞にもきちんと説明する」
ほどなくして、学校の正門前で車が止まった。
「誠坊っちゃま、舞お嬢様。学校に到着いたしました」
運転手がふたりに声をかけると、先に車をおりて、後部座席のドアを開けた。
ふたりが車からおりると、ちょうどそこには誠と同じクラスの西森青空が立っていた。
「あれ、西森さん。どうしたの、こんなところで」
誠が声をかけると、それまでリムジンを前に目を丸くしていた青空が、あわててあいさつをした。
「あ……っ、赤月君……! お、おはよう……! あの、その、ちょっと赤月君に、お話したいことがあって……!」
青空がしぼり出すような声でそう言った。
するとその様子を見ていた舞が、「ははあ」とわけ知り顔をした。
そして長い髪をはらりと優雅に手ではらうと、舞はかわいらしくにっこりと笑った。
「それではお兄ちゃん、ごきげんよう。
今日の放課後は用事があるから、お兄ちゃんはひとりで帰ってね」
それから誠に顔を近づけて、そっと耳打ちした。
「レディにはやさしくね、お兄ちゃん?」
呆気(あっけ)にとられている誠にはかまわず、舞はすました顔をしてそのまま先に行ってしまった。
「あの……だいじょうぶ? 赤月君」
「え、あ、うん。ごめん、それで僕に話って?」
「その……越智さんのことを話したくて……」
誠はおどろいて、声のトーンを落とした。
「もしかして、……見えた?」
誠の問いに、青空がちから強くうなずいた。