気がかりな放課後(b)


一方、誠と別れた飛鳥は、ふわふわと一年B組の教室に向かっていた。
自分が通っていた教室を、なんとなく見てみたくなったのだった。

しかし、B組の教室に着いたころにはもう、人はだれも残っていなかった。

「ううむ、さすがに人が死んだ教室には、だれも長居はしたくないか……」

飛鳥は自分の机の前に浮かんだ。
特に変わった様子はないが、机のなかはきれいに空っぽになっていた。

「……もう、この教室に私の居場所はないのだな」

この教室だけではない。
この世界のどこにも、もう自分の居場所はないのだ。

「……はやく、成仏しなければ」

飛鳥がそうつぶやいたところへ、ひとりの男子生徒がやってきた。
それはとなりのA組の生徒で飛鳥の幼なじみでもある、狩谷佑虎(かりや・ゆうご)だった。

佑虎はいつも困ったような顔をしている。
気弱だけれど、やさしい性格の男子生徒だということを、飛鳥はよく知っていた。

佑虎は、手に花びんを持っていた。その花びんには、白い花が飾られている。
どうやら佑虎にも飛鳥のすがたは見えていないらしく、視界に入ってもなんの反応もなかった。

佑虎はその花びんを、そっと飛鳥の机の上に置いた。
飛鳥はその花に顔を近づけて、ほほえんだ。

「きれいな花だ。水を入れ替えてくれたのか、ありがとう」

声が届かないのはわかっていたが、ついつい声をかけてしまう。
佑虎はじっと花びんを見つめたあと、なにも言わずに教室から出て行ってしまった。

「……佑虎にもすがたが見えないのは、すこしさびしいが……、 きっと、幽霊のすがたを見ることのできる赤月君のほうが、特殊なんだな」

飛鳥が肩を落としたとき、

「……きゃっ」

飛鳥のうしろで、ひかえめな悲鳴が聞こえた。