見つめ合うこと、数秒。
「……おや?」
先に声をあげたのは、飛鳥だった。
それまでじっと誠のことを見つめていた飛鳥は、やがてぎこちない笑みを作った。
「……赤月君。もしかして、私のことが見えているのか?」
誠がこくり、とうなずく。
とたん、飛鳥はさっと青ざめて、うしろに飛びのいた。
「す、すまなかった! まさか見えるとは思っていなかったから!」
誠は瞬時に、クラスメイトたちのようすを観察した。
一瞬だけ教室前方の女子生徒と目が合ったが、女子生徒はあわてたようすで、すぐに前を向いてしまった。
ほかは、まったく反応らしいものはない。
どうやら飛鳥の存在を認識している人間は、この教室には自分以外にいないらしい。
誠はノートになにかを書きこむと、飛鳥の目を見ながらノートの上を指でたたいた。
飛鳥は誠にうながされるまま、そろそろと近づいてノートをのぞきこんだ。
『僕についてきて』
ノートには、ただそれだけが書かれている。
「えっと、赤月く……」
「先生」
飛鳥の言葉をさえぎって、誠が手をあげた。
「お? おー……なんだ? 赤月」
「体調がすぐれないので、保健室に行ってきます」
「そうかー、じゃあ行ってこい」
日ごろの素行(そこう)がいいおかげか、すんなりと保健室行きの許可が出た。
狐塚は興味がなさそうにぱたぱたと手をふると、すぐに黒板に向かい直った。
「あの狐塚先生の小言がないとは、さすが赤月君だな!」
飛鳥が思わず手をたたいたとき、黒板にチョークでごりごりと数式を書いていた狐塚の手がちょうど止まった。
「ひッ!?」
狐塚に声を聞かれた気がした飛鳥は、思わず首をすくめる。
誠はというと、そんな飛鳥にかまうことなく、もう教室から出て行こうとしている。
「あっ、ちょっと待ってくれ、赤月君!」
飛鳥はあわてて、誠のあとを追いかけた。