つづく五現目、六現目(b)


見つめ合うこと、数秒。

「……おや?」

先に声をあげたのは、飛鳥だった。
それまでじっと誠のことを見つめていた飛鳥は、やがてぎこちない笑みを作った。

「……赤月君。もしかして、私のことが見えているのか?」

誠がこくり、とうなずく。
とたん、飛鳥はさっと青ざめて、うしろに飛びのいた。

「す、すまなかった! まさか見えるとは思っていなかったから!」

誠は瞬時に、クラスメイトたちのようすを観察した。
一瞬だけ教室前方の女子生徒と目が合ったが、女子生徒はあわてたようすで、すぐに前を向いてしまった。

ほかは、まったく反応らしいものはない。
どうやら飛鳥の存在を認識している人間は、この教室には自分以外にいないらしい。

誠はノートになにかを書きこむと、飛鳥の目を見ながらノートの上を指でたたいた。
飛鳥は誠にうながされるまま、そろそろと近づいてノートをのぞきこんだ。

『僕についてきて』

ノートには、ただそれだけが書かれている。

「えっと、赤月く……」
「先生」

飛鳥の言葉をさえぎって、誠が手をあげた。

「お? おー……なんだ? 赤月」
「体調がすぐれないので、保健室に行ってきます」
「そうかー、じゃあ行ってこい」

日ごろの素行(そこう)がいいおかげか、すんなりと保健室行きの許可が出た。
狐塚は興味がなさそうにぱたぱたと手をふると、すぐに黒板に向かい直った。

「あの狐塚先生の小言がないとは、さすが赤月君だな!」

飛鳥が思わず手をたたいたとき、黒板にチョークでごりごりと数式を書いていた狐塚の手がちょうど止まった。

「ひッ!?」

狐塚に声を聞かれた気がした飛鳥は、思わず首をすくめる。
誠はというと、そんな飛鳥にかまうことなく、もう教室から出て行こうとしている。

「あっ、ちょっと待ってくれ、赤月君!」

飛鳥はあわてて、誠のあとを追いかけた。